福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)26号 判決
原告 甲斐春夫
被告 熊本県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「昭和二十六年四月二十三日執行の熊本県玉名郡清里村議会議員一般選挙について、被告委員会が訴外片山直太の訴願に対し同年九月十三日なした裁決は、これを取消す。右選挙において訴外門川太市が当選人であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め
その主張の要旨は、
原告は昭和二十六年四月二十三日執行の熊本県玉名郡清里村議会議員一般選挙の選挙人であり、訴外門川太市及び片山直太は九十九票の同数得票者として、選挙会において選挙長がくじで右門川を当選人と定めた。ところが、右片山直太は当選の効力に関して村選挙管理委員会に対し異議を申立て、却下されて被告委員会に訴願し、これに対し被告委員会は同年九月十三日「訴願人の主張するとおり片山山直人と記載した投票が無効投票中に一票あり、この記載に類似する氏名の候補者は訴願人の外にはないのであるから、よしや片山直人なる者が同村に実在していても、右一票は訴願人の有効投票としなければならない。」との理由で、「昭和二十六年四月三十日清里村選挙管理委員会が訴願人の本件異議申立に対してなした決定はこれを取消す。同年四月二十三日執行の清里村議会議員一般選挙において当選人と決定された門川太市の当選を、無効とする。」との裁決をした。
しかし右裁決は違法である。すなわち、右片山直人なるものは同村大字牛水四百七十六番地に居住する実在人であるから、前記一票は候補者でない者の氏名を記載した無効投票でなければならない。けだし投票の効力を判定するにあたつては、その記載自体を文字どおりに認識すべきであつて、みだりに類似氏名の誤記とみるべきではないからである。従つて右片山直人の名直人の「人」を、訴願人片山直太の「太」の誤記と認め、訴願人の得票に右一票を加えて百票と算定し、さきにくじによつて当選人と定められた門川太市の当選を無効とした被告委員会の裁決は、投票判定の法則に違反するものであり、当選人は前決定のとおり門川太市であるといわなければならない。よつて被告委員会の裁決の取消とともに、右門川の当選の確認を求めるため本訴に及んだのである。
というのである。(立証省略)
被告代表者は主文と同旨の判決を求め、
その答弁の要旨は、
係争一票についての原告の見解を除き、その他の主張事実はこれを認める。すなわち、片山直人が同村内に実在するものであることは認めるが、同人は候補者ではなく、且つ片山直人との記載に類似する氏名の候補者は訴願人片山直太以外にはないのであるから、記載が不正確ではあるけれども、右一票は選挙人の意思を尊重して訴願人に対する投票と推定すべきであつて、これを同人の有効投票と決定し、門川太市の当選を無効とした被告委員会の裁決は、まことに適法である。よつて原告の本訴請求は失当である。
というのである。(立証省略)
三、理 由
原告が係争一票に関し本件裁決を違法として主張する点を除き、本件の経過的事項についての事実は、当事者間に争がない。
係争一票に記載されている片山直人なる氏名と、訴願人片山直太の氏名とがきわめて近い近似性において類似していることについては、説明の要がないであろう。すなわち、「人」と「太」とは、字形においても又人名の呼称の場合における字音においても、きわめて近似している。その近似は、ともすれば誤記をまねくほどのものである。
もつとも片山直人なる者が同村に実在する事実は、当事者間に争がないけれども、「片山直人」と記載された投票は僅か一票だけで他にないのであり、又右記載が同実在人を表示したものと推断すべき事情とてないのであるから、直人の「人」は直太の「太」を誤記したものと認めるのが相当である。
だとすれば、訴願人片山直太の異議申立を却下した村選挙管理委員会の決定を取消し、右係争一票を訴願人の有効投票としてその得票数に加え票差一票の門川太市の当選を無効とした被告委員会の裁決は適法であるといわなければならない。
よつて、原告の本訴請求は失当であるから、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決する。
(裁判官 桑原国朝 藤井亮 中園原一)